この「こころ」の例によらず、脳科学の知見は、その議論で使われている言葉が、日常使われているものと近いだけに、あらゆる場面でそのような誤引用や誤解が見られます。一歩間違えれば、全く間違った知見が、さも正しいことのように世間に流布され、それが…
また、「こころ」の問題というものも、研究者と一般の乖離なはなはだしい例かもしれません。みなさんは、「こころ」と聞いて、どのように思われるでしょうか?おそらく人それぞれ違った言葉で「こころ」を定義されるかと思います。人それぞれで異なる「ここ…
脳は対象を選ばない二一世紀にはいり、 脳科学は応用の時代に入ったと言われています。 巷では多くの脳関係の書籍が出版され、 たくさんの情報に触れることができます。 書籍だけではありません。新聞、テレビの中でも、 脳という言葉を見ない日はありません…
ところで、同じ言葉を使っていても、 科学者が使っている言葉の意味と一般に使われている言葉の意味と はかなり異なっていることがほとんどです。 一見同じ言葉を使って正しい科学的知見を引用しているように見え る議論も、脳科学の細分化と高度化により、 …
E.フラー・トーリー著/南光進一郎、中井和代訳「統合失調症がよくわかる本」日本評論社 2007 G.ウォーレンシュタイン著/候刀浩訳「ストレスと心の健康-新しいうつ病の研究」培風館 2005 加藤忠史「こころだって、からだです」日本評論社 2006 加藤忠史編「精…
統合失調症はいわゆる遺伝病ではないか、遺伝子配列が完全に同じ一卵性双生児では、およそ50パーセントの確率で二人とも発症する。この率は、遺伝子を半分しか共有していない二卵性双生児きょうだい(10パーセント程度)に比べてはるかに高いことから、統合失…
2005年の厚生労働省の「患者調査」では、日本全国で146万人の入院患者がいるが、そのうちのおよそ20万人が統合失調症の患者であることは、あまり知られていないであろう。また東京の都心部では精神科病院が不足していて、精神医療過疎地と言っていいくらいで…
最近では、D-セリンは統合失調症の候補薬剤として期待されているだけでなく、実は統合失調症の原因にも関係しているのではないか、と考えられるようになった。西川の検討では、脳内のD-セリン濃度に変化がなかったが、2003年になって、統合失調症患者の血清…
私たちの研究室では、それまで誰も行わなかった新しい実験方法をもってこの問題にチャレンジしました。まず、ラジオアイソトープで標的したAβ1‐42ペプチドを合成・精製しました。ペプチドの化学合成は、カルボキシ末端側から一残基ずつ付加することによって…
Aβの分解は神経組織において細胞質の外側で進むと考えられています。このような方法では脳内の複雑な立体的構造において進行する代謝課程を再現できるわけではないので、可能性のある候捕が次々に浮上するだけでした。 #東京大学 #脳科学 #アルツハイマー病 …
分解系は合成系と対をなしてAβの存在量を規定します。速度論的には、分解系全体の活性半分が半分に減るだけで、合成系が二倍に上昇するのと同程度の効果があります。家族性アルツハイマー病の原因として最も典型的なプレセニリン1の変異は、Aβ1‐42の畜産力を…
これらなかで、βセクレターゼは、新規の膜結合型アスパラギン酸プロテアーゼ BACE‐1であることが報告されました。他のセクレターゼと比較して基質の配列特異性が高いうえに、BACE‐1遺伝子を破壊したノックアウトマウスではAPPのβ部位での切断が完全に消滅す…
Aβ生成に関するプロテアーゼ(タンパク質・ペプチドを加水分解する酵素)、セクレターゼと総称され、Aβのアミノ末端を切断するものがβセクレターゼ、カルボキシ末端を切断するものがγセクレターゼです。さらに、βセクレターゼに代わって、アミノ末端側で切断…
アルツハイマー病研究は約100年前に始まりました。当初は、臨床医学や古典的病理学による「現象論」でした。その後、病理生化学が神経病理の物質的実体を明らかにすることによって、因果関係検討の突破口が開かれました。アルツハイマー病が科学的研究の対象…
前節までは、現在進行形で進んでいる研究戦略について述べました。これらに加えて、将来を見据えた次なる戦略が必要だと私は考えています。前述しましたが、アルツハイマー病モデルマウスをAβで免疫すると抗Aβ抗体が産生され、Aβ蓄積が抑制されることが報告…
現在、国内外で多くの治療薬候補が臨床試験を受けています。総額で数千億円以上の費用が投じられているはずです。研究開発に用いた資金を出来るだけ早く回収したいのでしょう。臨床試験の結果は結論が出るまで公表されませんから、今後どのような展開になる…
「アルツハイマー病の最大の謎」の項で述べたように、Aβが蓄積して認知症に至るメカニズムは残念ながら解明されていません。この問題が克服されない限りは、アルツハイマー病の完全な予防と治療は不可能でしょう。現在考えられている主な可能性を示します。…
現在アルツハイマー病治療のために世界で最も使用されている医薬品はドネペジルです、これは、エーザイの杉本八郎博士(京都大学)が開発に成功した、世界に誇る日本の成果です。製薬品をアリセプトといい、年商約1000億円といわれます。ドネペジルはどんな…
現在、アルツハイマー病の根本的治療の対象として、脳内のAβレベルを下げるアプローチが精力的に進められています。これまでの主流のアプローチは、セレクターゼの阻害剤とAβワクチンです。動物実験においてある程度の効果が認められたので、現在臨床試験の…
前述したとおり、孤発性アルツハイマー病の発症リスク、80歳を過ぎてから、急激に上昇します。欧米のベータでは、80歳で四人に一人が罹患しています。100歳では実質的に10人中9人が影響を受けているという報告もあります。この数字は、アルツハイマー病が特…
ネプリライシンを用いた遺伝子のは、アルツハイマー病の患者さんに対して成功する可能性は十分にあります。ただ、脳外科的処置を要するため、実際の患者さんを治療する神経内科医や精神科医には敷居が高いのが現状です。そこで、薬理学的方法の探索が進めら…
アルツハイマー病を発症すると、まず記銘力を含む認知能力が進行的に低下し、さらに、譫妄(意識混濁、幻覚、錯覚)などの精神症状を呈することがあります。認知能力低下は通常エピソード記憶(最近自ら行ったことや見聞きしたことに対する記憶)の異常から…
ようやく役者がそろってきたので、因果関係の検討が可能となりました。原因は結果に先行するはずですから、これらの事象の時系列が検討され、 アミロイドペプチド(Aβ)の蓄積→タウタンパク質蓄積→神経細胞死 という順番が確立されました。また、現在では、…
科学することの本質は、「因果関係の樹立」と「メカニズムの解明」です。そしてそのためには研究対象を詳細に記述しておかなければなりません。これは「現象論」や「博物学」と呼ばれるものです。研究は研究対象に名前を付けることからはじまります。アルツ…
アルツハイマー病は当初臨床医学や古典的病理学の手法で行われていたため、なかなか原因を捕らえることができませんでした。しかし、1980年代頃から基礎研究が導入されて基礎が築かれ、1990年代に入って研究は飛躍的に進歩しました。その主役は、生化学(タ…
基本的に神経細胞は分裂後細胞です。つまり、肝臓細胞等と違って分裂し続けることができません。したがって、一度出来上がった神経回路を維持するためには、個々の神経細胞が個体の死まで数十年にわたって生存し続ける必要かあります。言い換えれば、脳の老…